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2022年3月30日

人事・賃金・評価制度

誤解の多い年俸制

社労士業務を長年開業していると、何十年経っても未だに年俸制について同じような誤解があることに気付きます。そこで、年俸制にまつわりよく誤解されている点をまとめてみます。 

■そもそも年俸制とは? 

賃金の支払い形態は4種類あります。時間を単位として支払う時給制、日を単位とする日給制、月を単位とする月給制、そして年を単位とするのが年俸制です。 

つまり、年俸制は賃金支払いの時間軸を年としている制度に過ぎないわけです。 

労働は時間軸の長さによって、求められる仕事の成果は異なります。時給制は、時間単位の限られた中での成果に限定されますので、ルーチン業務や定型業務に向いています。日を単位とする日給制は、1日ごとの仕事の成果・進捗が求められ、日雇い業務などに適しています。月給制は月単位での成果のため毎日勤務する一般社員に対して向いています。 

年俸制はというと、役員と同様に1年という長期間で一定の成果を出す必要があります。1年という時間的にも余裕がありますので、長時間を要する業務、難易度の高い業務、熟慮を重ねる業務等に適しています。そのため、一定レベル以上の社員に適した支払い形態です。 

年を単位として賃金を決める年俸制は、実務上は前年の成果を踏まえて翌年の年俸額が決まります。一般的にはスポーツ選手などのように成果によって報酬が変わるのを思い浮かべます。 

企業においては、外資系企業などによく見られます。成果主義の台頭や企業間競争激化などもあり、近年では日本企業にも多く導入されるようになってきました。 

そのため、労働法の権威者である菅野和夫氏は、「賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度」と定義しています。 

■時間外手当は? 

この年俸制は一般企業でも多く導入されていますが、年俸額を労働時間ではなく成果で判断するのであれば、割増賃金を支払う必要はないと考える企業も存在します。そのため、残業代を払いたくないために導入している企業もあります。 

しかし、年俸制であっても、実際の労働時間が法定を超えれば時間外割増手当を支払わなければなりません。 

労働基準法は労働の成果ではなく、「時間」に対して賃金を支払いますので、月給制であろうと年俸制であろうと、法定労働時間を超えた場合、休日または深夜の労働に対する割増賃金を支払わなければなりません。 

ただし、労働基準法41条では、事業の種類に関わらず、「管理・監督の地位にある者」については、労働時間や休憩及び休日に関する規定が適用されません。 

権限を有し成果も求められるような管理職には、年俸制は馴染みやすいといえます。 

■年俸制における賞与 

年俸制であっても、年に一度全額を支払うことはできません。賃金支払の原則から、年俸額を12分割して、毎月12分の1ずつを月例給与として支払います。そのため、管理職ではない社員が法定労働時間を超えて勤務した場合は、年俸額の12分の1を割増賃金の算定基礎額として計算します。 

企業によっては、年俸額の一部を賞与として支給し、残りを12分割した月例給与として支給している場合があります。例えば、年2回の賞与は月例給与の2ヵ月分支給する場合、年俸の16分の1を毎月払い、16分の2を賞与として払うケースがあります。 

この場合の割増賃金の計算は、16分の1が算定基礎額とはなりません。通達では賞与について「支給額が予め確定されていないものをいい、支給額が確定しているものは賞与とみなされない」(昭和22年9月13日発基17号)とされていますので、16分の2の賞与は賞与に該当せず、年俸の12分の1が算定基礎額となります。 

どうしても16分の2を割増賃金の算定基礎額から控除したい場合は、支給額が確定した賞与ではなく変動の可能性がある「仮賞与」として、半期の評価によって変動する制度にする必要があります。

■裁量労働制との関係 

裁量労働制を導入している企業で、年俸制をセットで導入している企業があります。 

裁量労働制は労働時間を労働者に委ねる制度で、労働時間制のひとつです。 

一方、年俸制は賃金の支払い形態のひとつです。両制度は異なります。 

ただし、労働時間に自由度のある人には、権限や義務が伴いますので、年俸制と裁量労働制は親和性があるとも言えます。 

ただし、上述のとおり管理監督者に該当しなければ、時間外手当と休日手当の支払いは必要になります。 

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